1980年代の日本の環境音楽
1980年代の日本の環境音楽(Kankyō Ongaku / カンキョウ・オングラク)は、現在、海外の目の肥えたディガー(レコード発掘家)や若きリスナーから「奇跡的な静寂と美しさを持つ音楽」として熱狂的に迎え入れられています。
このブームを決定づけたのは、米国の名門リイシューレーベル Light In The Attic が2019年に発表し、グラミー賞にもノミネートされたコンピレーションアルバム『Kankyō Ongaku』でした。
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現在、国内外で「歴史的名盤」「聖典」として爆発的な再評価を受け、アナログ盤(LP)の復刻が相次いでいる代表的なアルバムをいくつかご紹介します。
1. 吉村 弘 『Music For Nine Post Cards』 (1982年)
吉村弘氏の記念すべきファーストアルバムです。
背景: 原美術館(東京・品川)の館内BGMとして、窓から見える雲の動きや木漏れ日、雨の音にインスピレーションを得て制作されました。
魅力: ミニマルなキーボードとフェンダー・ローズ(電子ピアノ)だけで構成された、極限まで無駄を削ぎ落としたサウンド。日本の環境音楽の原点にして究極の美しさと称され、海外のアンビエントファンからは圧倒的な支持を得ています。同じく1986年の名盤『GREEN』も、今や世界的なアイコンとなっています。
2. 高田 みどり 『Through The Looking Glass』 (1983年)
パーカッショニスト・作曲家である高田みどり氏のソロデビュー作です。
背景: YouTubeのレコメンドアルゴリズムをきっかけに海外で火がつき、数百万回再生を記録して世界的なブームを牽引した「伝説の1枚」です。
魅力: マリンバやシロフォン(木琴)、数々の打楽器、そして自然の環境音を何層にも重ね合わせた呪術的でミニマルなアンサンブル。アンビエントでありながら、アフリカやアジアの伝統音楽を内包した「第4世界(Fourth World)」の傑作として欧米で神格化されています。
3. イノヤマランド 『DANZINDAN-POJIDON』 (1983年)
井上誠氏と山下康氏によるユニット「イノヤマランド」のファーストアルバムです。
背景: 細野晴臣氏がプロデュースを手掛け、自身のレーベル「¥EN(円)レーベル」からリリースされました。
魅力: どこかノスタルジックで、水中に潜っているかのような、あるいは古いおもちゃ箱を覗いているかのような浮遊感のあるシンセ・ポップ〜アンビエント。のちに彼らは国際花と緑の博覧会(1990年)などのパビリオン音響なども手掛けることになります。
4. 細野 晴臣 『Watering a Flower (花に水)』 (1984年)
YMOのリーダーであり、日本のポップス/電子音楽の巨頭である細野晴臣氏の作品です。
背景: 当時、カセットブックとして限定発売された、ある企業の店舗用BGMの企画から生まれた音源です。
魅力: のちに無印良品(MUJI)の初代店舗BGMとしても使用されることになる「Muji Original BGM」などが収録されています。非常にミニマルで温かみのある電子音が穏やかに繰り返される、当時の日本の「豊かな消費社会の裏側にあった静寂」を象徴するような名盤です。
5. 芦川 聡 『Still Way』 (1982年)
日本の環境音楽シーンの重要人物でありながら、1983年に早逝した芦川聡氏が残した唯一のアルバムです。
背景: 吉村弘氏らとともに、音楽を衣服や家具と同列の「環境」として捉える思想(Sound Process)を実践していました。
魅力: フルート、ピアノ、ハープ、ヴィブラフォンなどが波紋のように静かに交錯する、究極に美しいモダン・クラシカル/アンビエントです。長らく入手困難でしたが、近年の世界的な再評価により待望のアナログ復刻が実現しました。
なぜ今、世界でここまで響くのか? 1980年代の日本はバブル経済へ向かう超ハイテク・超都市化の時代でした。その過剰な喧騒に対する「カウンター(癒やし)」として、当時の最先端の電子楽器を使って「引き算の美学」で作られたのがこれらの音楽です。現代のデジタル社会に生きる海外のリスナーにとって、この時代の日本の音は、最も贅沢でパーフェクトな「マインドフルネス・ミュージック」として聴こえているようです。
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